男の決断

文字数 493文字

 家に着いて両親の顔を見たとき、僕には話さなければならないことができた。

 今後の身の振り方の問題だ。

 もうバイトができない以上、このまま学校へ通う方法は1つしかない。

軍の奨学金を受ける。
 玄関口から一歩も上がらずにそう告げたとき、オフクロは露骨に暗い顔をした。

 親父はというと、口元に笑みを浮かべて、ゆっくりと頷いた。

それも男の生き方だ。
何言ってるの、父さん!
 いつになくきつい口調で、オフクロがたしなめた。
うるさい、才が自分で決めたことだ。
こんな時代に、死んだらどうするの!
お前らはいつも一足飛びに話がそこへ行く。
 お前ら、というのがオフクロと誰を指すのかよく分からなかったけど、たぶん戦争や軍隊の派兵に反対する人たちだ。ときどき、横断幕上げてデモかなんかやってるのをテレビで見る。親父はしばしば、そういう人たちを小馬鹿にするところがあった。
アフリカでの文民保護を目的とした派兵を承認した政府に対し、軍事同盟による追随と非難する国々は、敵対行為については例外なく武力行使を含めて制裁するという声明を……。
 台所でつけっぱなしにしているらしいテレビから、紛争関連のニュースが流れてくる。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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