眠るヨウコに、僕は……。

文字数 477文字

はあ……はあ……。
あ……ん……うっ!
はあ……はあ……はあ……はっ!
ん……ん……ん!
もう……ダメだ……はあ……はあ……。
……お兄、ちゃん……。
 僕は力尽きて、畳の上にガックリと突っ伏した。ヨウコはというと、相変わらず何だかよく分からない寝言を言いながら、気持ちよさそうに僕の布団で眠っている。
ダメだ……腕立て伏せくらいじゃ……。

 オフクロが敷いてくれた布団の隣で、僕はひたすら就寝前の筋トレに励んでいた。布団をヨウコに明け渡して、隣で気持ちよく眠るためだ。

 その寝顔は可愛かった。天井を見上げてぼやかなくてはならなくなるほどに。

まさか、足止め食うとはな……。

 結果から先に言うと、僕は日曜日の間に学校へは戻れなかった。バスが、途中で止まってしまったのだ。軍の車両が移動するので、道路を空けなくてはならなくなったらしい。結局、スマホで親父に連絡を取って、迎えに来てもらった。

 出がけに玄関であんな「幻」を見た後だからだろう、恥ずかしそうな気まずそうな、変な顔をしていた。帰ってからは、オフクロまでが黙々と、中学まで使っていた僕の部屋で布団を準備していたのだ。

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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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