水車男登場
文字数 696文字
どうやらヨウコが思いついたのは、岬さんが手にしたバッグを逆回転した水車に引っかけることだったらしい。
いずれにせよ、『古文書解読』を拾っただけで岬さんとはお近づきになれたのは、こういうきっかけがあったからだ。
ただし、ライバルの存在が現実になったのも確かだったが。
言葉はそのくらいしか出なかった。一見して高そうなジャケットとシャツ、すらっとしたメンズパンツ姿の若者は、いつかこうなりたいと思わせるくらい、知性的で格好良く、そして裕福に見えたのだった。
だが、僕がレジに立った時に見ていたら、その時の支払いはきっちり割り勘だった。岬さんはレディース仕様の、半玉うどんだった気がする。
帰りにレジを済ませた2人の去っていく後ろ姿を眺めていると、ヨウコがぼやいた。
もちろん、この不規則発言に対する岬さんと向坂のリアクションはない。
ヨウコはその姿も見えなければ、声も聞こえはしないのだから。