親父の怒り

文字数 407文字

ホントに往生際悪いんだから、諦めりゃいいのに。
だからもっと大事に食え、最後の一杯を。
 ムキになって黙らせたが、本当に諦めるつもりだったのだ。そのためには、ちょっと冷却期間が必要だったというだけのことだ。

 それを許さなかったのは、親父だった。

帰れ! もう授業料も出さん!

 玄関に立った僕の顔を見るなり、怒鳴りつけ、脅しつけられたわけだが、そうなれば、高校中退で田舎へ帰り、安い給料で地元に勤めてくすぶっているしかない。

 たかが女の子一人のために、人生を棒に振るのはゴメンだった。

まあまあ、お父さん……。

 オフクロがなだめてくれて、僕は家の敷居をまたぐことなく下宿へ戻るだけで済んだ。でも、家よりも更に山奥から来たバスに乗り込んだ僕の心はやっぱり晴れなかった。

 ほかに誰も乗らないまま発車した後には、夕暮れ時の懐かしい山々の影を眺めて思った。

(……できれば、戻りたくない)
 その時だった。バスが急にバックを始めたのは。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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