気の迷い、と言われても

文字数 448文字

(いや、まだ告白していないんだから……)

 それは自惚れというものかもしれない。でも、死ぬと分かっていて、将来性のある男との交際をやめさせることはない。

 ややこしい言い方になるけど、言わなければならないのだ、今。

(断るのを、やめろ)
 だが、岬さんはまさにその行動を、半分だけ起こしていた。
今、記念公園。
 軍のミサイル基地のあたりに、昔あった帝国陸軍連隊の顕彰講演がある。憲法が変わってすぐ、できたものらしい。でも、誰もそんなこと気にしていない。5月の連休なんかは、そこで軍の人も屋台出したりして、なんだかんだとイベントが開かれる。
向坂さんを呼び出したの。大事な話があるって。
 まだ間に合う。それは交際OKって返事の可能性もあるからだ。
その話なんだけど、実は……。
あ、向坂さん来た、じゃあ、また、後。
 僕の話を遮った岬さんの言葉は、中途半端なところで途切れた。 
どうだった?
 思いっきりニヤニヤ笑いを繕ったヨウコが、僕の真下から顔を突き出した。 
ダメだよ、そんな一時の気の迷いで命投げ出しちゃあ……。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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