暗い話を狐と明るく

文字数 548文字

知らない。
 共に生きた仲間の消息ぐらい、知っておいてもよさそうなものだ。
どうなったの?
 行き先ではなく、消息を軽いノリで聞いてみる。
龍になると、3年で死んじゃうって聞いたことある。
 やっぱり重い話だったが、ヨウコは事もなげに言った。それはまるで、生死を達観した哲人の言葉のようにも聞こえた。

 だから、僕もさらっと尋ねられる。

お前も?
う~ん、分かんない。狐って、無理な妖力の使い方すると死んじゃうらしいし。
 深刻な話題のはずなのだが、やっぱり口調は軽かった。
おまえさ……。

 なぜ、ヨウコが僕について街中に出てきたのか、だいたい見当がついた。

 寂しかったのだ、ただ単に……だが、それはあと900年も続く孤独だ。 

 暗い雰囲気にならないよう、さらにツッコもうとしたが、それはしないで済んだ。

あ、バス来た!
 ステップを上がると、車内の電光掲示板にニュースが流れていた。
隣国との緊張に警戒、ミサイル移動……。
 そこまでしか読めなかったのは、ヨウコがいたずらっぽく囁いたからだ。
 あ、そうだ、最後の1匹は、人間のお嫁さんになったんだっけ……なんか、病気で死んだ女の人の身代わりになったんだって。覚えてる、日本晴れの空から、雨がパラパラ降ってさあ……。
 また、胸が微かに痛んだけど、なんとか倒れずにこらえた。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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