逃げ帰ったあの日

文字数 420文字

 恥ずかしい話だが、進学して半年で、実家へ逃げ帰った原因は由良岬だ。バスに乗れば、次の日の朝には、岬さんと顔を合わせなければならなかった。
さ、そろそろ白状してもいいでしょ。妹に話してみ?
 再び僕の膝に乗るなり、ヨウコは偉そうに人生相談など始めようとする。
僕に狐の親類縁者はいない。
 誰が教えるか、こんなみっともない過去。
どーせ、岬ちゃんに嫌われたとか何とかいうんでしょ。
 いちいち図星を突いてくるのは、コイツが妖狐だからなのか、それとも僕のやってることがベタだからなのか。

 入学したときから、岬さんが気にはなっていたのだ。でも、田舎暮らしでろくに女の子と関わる機会もなかった僕は、どうやって声をかけたらいいのか分からなかった。

 そのくせ、クラスの誰かがちょっかい出さないか心配していた辺り、ヨウコのいうご都合主義はあながち否定できない。

もうつきあってる人がいたのがショックだったとか? はぐ。
だから、食うならしゃべんな……つきあってないし。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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