セーラー服姿の妖狐と過ごす毎日の始まり

文字数 478文字

 それはともかく、軍隊の存在が認められて、海外の戦争にも参加できるようになった。そんなことが理解できるようになった頃には、もう学校でも入隊を前提にした進路指導をやっていた。
(中学生のときからだもんなあ……)
 実家の辺りでも、高校や大学を卒業した後の入隊を条件に、軍から奨学金を貰って進学する者は珍しくなかった。
(その手もあったんだけど)
 僕はそのつもりで相談したんだけど、オフクロに止められたのだった。
何か最近、物騒だから……。

 実際、この辺りにも対空ミサイルを配備した基地がある。弾道ミサイルが落下したという想定で、高校でも避難訓練を2カ月に1回くらいの割合でやっている。

 もっとも、そんなことが起こるという実感はない。毎日が、前の日と同じように過ぎていく。

 全力で自転車を漕ぐ僕と並走する、セーラー服姿の妖狐と過ごす毎日はどうなるか分からないけど。

お腹空いた。
食ったばっかだろ。
 いちいち食欲を満たしてやっていたらキリがない。
あ、コンビニ。
お前のせいでクビになった前のバイト先な。
 一言で切り捨ててやったが、反省の言葉は聞けなかった。
昔のことじゃない。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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