たどり着いた源流

文字数 448文字

 そんな思いをして歩いた明るい道の果てに、鬱蒼と生い茂る森を背にした真っ赤な鳥居があった。
ふう……。着いたよ……。

 無数の針のような視線からようやく解放されてたどり着いたのが、この辺りの氏神となっている宇迦之御魂神の社である。一歩足を踏み入れると、鳥居の向こうは別世界のように薄暗く、涼しかった。

へえ……。気持ちいい……!
 朱がくすんで、あちこち剥がれた無数の鳥居をくぐって山道を登っていく……のは岬さんだ。華奢な身体からは想像もできないほど、足腰は強靭だった。
(え……まさか、そんな?)
 僕はというと、すっかりヘバっている。子どもの頃に何度かお参りに来たことがあるはずなのだが、10年以上たった今でも、昔と同じくらいキツイ道のりだ。
(速い……)
 それなのに岬さんは、僕を尻目にどんどん先へと行ってしまう。そのしなやかな脚やヒップラインを急な傾斜の下から眺めることのないよう、目をそらしながら身体を引きずり上げるのは至難の業だった。
(いかん、いかんいかんいかん、岬さんをそういう目で見ては……)
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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