ヨウコの尻尾で危機一髪

文字数 426文字

(いけない……!)
 ヨウコのハーフパンツがずれかかっている。狐色の尻尾の先が、ちらっと見えていた。
じゃあ、僕これで!

 ヨウコの手を引いて、慌てて玄関を飛び出した。

 親父の怒鳴り声は聞こえてこなかった。代わりに耳の奥で引っかかったのは、オフクロとのこんな会話だ。

お、おい……才、何か言ってた……か?
ええと、さ、さあ……そうそう、さっき出がけに何か言ったみたいだけど……。
 とりあえず安心できたのは、お互い、何かトボけているみたいに聞こえたことだ。  

もういいぞ、ヨウコ。
 バス停まで走って行くと、もうすっかり暗くなっていた。バスが来るまでは、まだ30分ほどある。
……。

 ヨウコが済まなそうにしょげているのは、何となく分かった。

大丈夫、お互い、変な幻でも見たと思ってるだろうさ。
 たぶん、自分たちが玄関で見聞したものは、親父もオフクロも一生、口にはしないだろう。それだけで充分だ。
……でもね。
 それでもヨウコは、自分の失態を相当、気にしているみたいだった。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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