両親との対決

文字数 405文字

 実家まで、2時間はかかる。
先にウチに行くけど、いい?
お構いなく。

 ずいぶんと勇気が必要だった一言を、岬さんは軽く受け流してくれた。

 確かに、両親に知らん顔したまま、行って帰って来れば済むことにも見える。

(でも……ここは田舎だ)
 その手の噂は光より早く伝わると言っても過言ではない。

 歪んだ情報を真に受けた親父に授業料の送金を止められるよりも、帰ったら帰ったと正直に申し出て、女の子にうつつを抜かしているわけではないと主張するしかない。

まあ、きれいなお嬢さん。
 玄関から先へは入れないし、入る気もない僕を前に、母は相好を崩して喜んだ。だが、父は実に分かりやすく、対照的な行動を取った。
お前は勉強もせんとこんな……。
父さん!
 オフクロは怒りのあまり言葉が出なかったのか、それとも岬さんの前で言ってはいけない言葉を察して遮ったのかは分からない。それはともかくとして、僕はとりあえずその場をごまかすことだけはできた。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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