水車男からの電話

文字数 406文字

 僕のスマホに電話がかかってきたのは、そのときだった。田舎者にそれほど人づきあいがあるわけでもなく、連絡先は限られている。因みに、岬さんの連絡先はメールアドレスしか知らない。電話番号は、まだハードルが高かった。
誰だろ……?
 表示された番号に、心当たりはない。
細工は流々。
 ヨウコはまた、不敵に笑った。首をかしげながら電話に出てみると、知らない男の声がした。

 まだ若い。はきはきとした、しかし、柔らかい声だ。

もしもし、コウサカです。
あの……。
 間違い電話かと思ったが、そう告げる前に、頭の中で閃いた名前があった。
(コウサカ……こうさか……向坂)
 たしか、岬さんが頼りにしている(絶対に、つきあってるなんて認めたくない)大学院生は、向坂って名前だったはずだ。
まさか……。
へへ。
ヨウコが、可愛くウインクしてみせた。背筋に寒いものが走る。
(間違いない。コイツの仕業だ)
 この妖狐が逆転させるのは、機械の歯車だけではない。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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