やり直しが始まる

文字数 455文字

(これで、何もかも元通り……いや、やり直された、のか?)
 その証拠に、明らかによそ行きの格好でキメてきたと思しき向坂……さんは、きまり悪そうに頭を掻いた。
いやあ、そうじゃないかと思ったんですよね、あの時。
 あの時っていうのは、昨日、信夫ヶ森の稲荷神社でのことだ。男2人に挟まれた女1人、いわゆる「修羅場」って状態になったんだが、それはもう、笑えない笑い話になっている。
いい大人がつまらない意地張ってしまって、すみません。
 学も金もあるのに、すごく気さくな人だという気がした。岬さんが素直に告白を断れたのも、そのおかげだろう。
いいえ、私こそ、お気持ちに応えられなくて……何ていうか、子どもで。
 そうは言うけれど、僕から見ればドキっとするほど大人の対応だった。それを受けてか、向坂さんはいきなり踵を揃えて、ピシッと直立した。
自分こそ、すこし冷静を欠いておりました。反省しております!
向坂……さん?
 いきなり態度が変わったのに岬さんは唖然とした。それは僕も同じだった。口もきけないでいる岬さんの代わりに、僕が尋ねた。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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