いちばん助けてもらいたくない相手と

文字数 460文字

そんな足でどうして。
 惨めなことに、僕をそんな言葉でいたわるのは、よりにもよって向坂だった。高そうな革張り内装の車で、足を挫いた僕を記念公園まで送ってくれるというのだ。
いえ……岬さんが心配で。
それは俺も同じだよ。
 神社で会ったときと同じ、丁寧な口調だった。だが、一人称が「俺」というのはちょっと意外な気がした。
今朝、一緒じゃなかったんですか?
何でそれ知ってる?
 言えるわけがない。足を挫いた事情と同じくらい、それは言えなかった。
(読みは……間違ってなかったんだよ)

 僕はトラックのシートに何とか飛びつくことができた。足下も機械みたいに固いものじゃなかったから、落ちた衝撃で怪我をすることはなかった。むしろ、柔らかすぎたくらいだ。たぶん、ウレタンか何かが積んであったんだろう。

(それが……かえっていけなかったんだけどな)
 落ちたショックで弾き飛ばされ、僕は固い歩道の上に叩きつけられた。飛び降りたときはまだ着地の姿勢を取ろうとすることができたけど、こんな不意打ちを食らってはどうにもならない。足の捻挫で済んでよかったのだ。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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