命あっての……

文字数 479文字

 だが、こういうことも言える。

(日が昇っている間、僕は何があっても死なない。だから、飛び移っても、命は保証されてる。飛び移った車両の進行方向さえ間違ってなければ、そのまま、ある程度まで運んでもらうことだってできるはずだ)

 そこまで考えて、僕は高架橋の端っこに足を掛けたが、そこではたと踏み止まった。
(……死なないんだよな。でも)
 怪我をしない、ということではない。瀕死の重傷を負っても、生きていることには違いないのだ。たとえ命があっても、記念公園まで、そして岬さんのもとまでたどり着けなければ意味がない。
(……地道に、走るか?)
 太陽の光を感じる方向に振り向いてみた。公道を挟む山の端に、そろそろ近づき始めている。日没までは時間があるけど、徒歩で移動したことがないから、よく知らない迂回ルートを通って間に合う保証はない。
(……決めた!)
 高架橋の下を、あの何とも言えない暗い色をした軍の大型トラックが通過する。僕はその荷台にトランポリンのように掛かったシートを大きく息を吸い込んで見据えると、道の端にあるフェンスを乗り越え、思いっきり両腕を振って飛び降りた。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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