100年の孤独、1000年の狐龍

文字数 458文字

そう、全部、ひとりで。
ひとり……?
 この辺にはまだ狐は出るけど、100年なんてのはそうそういないだろう。ましてや、1000年なんていうレベルの妖狐がいなくなっていても不思議はない。
みんな、どこへ行ったんだ?
アタシが小さい頃に、消えちゃった。
そうか……。
 死んだ、とは言わない。
(やっぱり、認めたくないんだろうな)
 それ以上は聞かないことにしたが、狐には狐の複雑な事情があったらしい。僕なんかには察しもつかないから、唐突に聞かされても分かりはしない。
狐龍って知ってる?
コリュウ?
狐はね、1000年生きると、龍になるの。
 知らなかった。いや、別に人間が知らなくてもいい話だ。だが、急ではあっても重い話題じゃない。沈んだ気分から抜け出せるという安心から、聞いてみた。
飛んでっちゃったの?
飛んでっちゃった。
 籠の鳥を逃がしたみたいな軽い言い方に、ツッコんでみた。
どこへ?
 100年生きたヨウコが人を化かす上に、そんなとんでもないものがそこいらを飛び回っているとは思えなかった。だが、その名を口にした張本人は、さらりと言った。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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