妖狐のヨウコの大パニック

文字数 506文字

……話してよ。
 さっき岬さんに気持ちを告げようとしたときと同じくらい、でも別の意味で心臓がバクバク鳴った。

 とはいえ、さっきよりは遥かに気は楽だった。もう、どうにもならないという気がしていた。

美味しくって、何倍もお替りしたの。それで、いつの間にか、お櫃も空になって、それで……。
手短に。

 ヨウコは、言い訳がましく余計なことを話しはじめた。

 まかないを残らず食べてしまった時点で、バイト先にはもう、顔を出せない気がする。でも、それはこっちの問題で、店からクビになるなんてことはないだろう。

 だが、ヨウコの答えは最悪の処遇を納得させてくれた。

我慢できずに、人の丼にまで飛びついちゃったの。
そうか……。
 他の店員とのトラブルを起こしたら、それはクビだろう。しかも、極めつけはこれだった。
そんとき、尻尾出しちゃったんだ、四つん這いで……。

 さっきもそうだったけど、その姿は誰にでも見える。尻尾までは、見た者の気のせいで済むだろう。でも、両手をついてしまったのはアウトだ。完全に、正気じゃない。

 いわゆる、いや、文字通りの「狐憑き」というヤツだ。

 学校にも連絡されたろうから、バイトそのものができなくなるということになる。

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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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