両手に花のハーレムが

文字数 569文字

よかったじゃない。
 ヨウコは布団の中から言ったけど、それはもちろん、メールの件じゃない。電話のほうだ。でも、僕としては両手に花と言ってよかった。
(バスが復旧するまで、岬さんからの報告をじっくり待てばいいんだ。向こうに戻れば、告白のチャンスは確実にやってくるんだし)
 それまでは、実家の上げ膳据え膳でゆったり過ごせばいい。どうせ、バイトはクビだ。今日1日は、ヨウコとのんびり過ごせる。
(あれ? これもやっぱり、両手に花……?)
 そんな妄想を断ち切るかのようにお、僕の頭にTシャツとハーフパンツが降ってきた。ヨウコの仕業だ。
お前!
 振り向こうとして、はたと気付いた。
(これ脱いじゃったら、ヨウコは……)
お兄ちゃん……。
 囁く声に、僕はじたばたとのたうち回った。替えの服なんか、オフクロがどこにしまったか分からない。
何やってんだ、これ着ろコレ早く!
 目を固く閉じて叫んでいると、そのオフクロが襖の向こうから眠たそうに言った。
朝から何騒いでんの?
ああ、今日、学校休みだってメールが。
どれ。
 襖を小さく開けて、スマホを差し出す。もう片方の手を振って、昨日の服を着ろとヨウコに促した。
いやだ汗臭いし。
我慢しろ。
 ヨウコとのやり取りする僕の声が聞こえたのか、オフクロはスマホを返しながら言った。
仕方ないね、今日1日はゴハンの面倒見てあげるよ。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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