僕の心の事情

文字数 499文字

(告白されたってことは……、やっぱり彼氏彼女の関係じゃなかったってことだよな。すると……むざむざチャンスを逃しちゃったってことだ。平日の放課後に? 図書館で? いつも一緒だったのに? バカじゃないか、僕は……)
どうしよう。
(待てよ……待てよ待てよ待てよ……。そこで迷うってことは、まだ逆転の余地があるといえないこともないことはなくもない!)
……さっきのドア逆転させたの、アタシじゃないから。
(わかっとるわい、黙ってろ!)
 蔵書量2万冊とも3万冊とも言われる巨大図書館を誇るのが、ウチの学校だ。だが、この私立高校に独り暮らしの下宿生活をして通うことにしたのは、読書のためではない。1年間、部活も入らずに、学校で放課後を過ごすようになったのは、ひとえにこの由良岬がいたからだ。

 彼女目当てだったと言ってしまえば身も蓋もないが、それでも僕は、去年の秋まで声もかけられずにいたのだった。

……断れ!

 思い切って、僕はきっぱりと言った……のならよかったのだが。

 確かに押すなら今なんだろうけど、そんな甲斐性があるならとっくにやっている。

 本当は、どこからか聞こえてきたのだ。こんなふうに。

……って言いなさいよ。

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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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