対決の時
文字数 479文字
押し付けられる胸のふくらみに、僕は縮こまった。抱き留めてよいものかどうか、分からなかった。
意を決して岬さんの背中に腕を回そうと思ったが、その時はもう、遅かった。その身体はいつの間にか引き離され、僕は自分で自分を抱きしめる羽目になった。
岬さんが呼んだ思わぬ名前に従って視線を追うと、そこには見覚えのある男の姿があった。
岬さんと僕のどちらに向けられた言葉かは分からなかった。でも、岬さんに口を開かせてはいけない。何か言えば、それはやましい言い訳になる。
返事を横取りした僕を見つめて、岬さんは何か言おうとしたのか、唇を曖昧に開けている。その言葉が出ない隙に、向坂との間に立ちはだかることにした。
バイト先のうどん屋の前で一度だけ会った相手だ。訝しげな顔をされたけど、敵意は感じなかった。むしろ、僕を真剣に思い出そうとして、頭のてっぺんから爪先まで眺め渡そうとしている感があった。