秘められた想い、そして……。

文字数 450文字

いったい、どういう?
時局に思うところありまして、こちらへ。

 指差す先は、ミサイル基地だ。早い話が、大学院を辞めて軍に入るということだ。それは、岬さんへの想いを駆り立てるのに十分な事情だ。

 僕は、手を差し出した。

焦っちゃったわけですね。
分かります?
 握手を交わしたときは、もとの向坂さんに戻っていた。おかげで、僕も秘密を話しやすくなった。
だって、僕も、いずれは年季奉公しますから、いつ……。

 死ぬか分からない、という言葉は、呑み込んだ。実際に、向き合ったことだ。その恐怖は、身体の奥底に染み付いている。

 だが、向坂さんの言うことは、それとはちょっと違っていた。

そうじゃないんです……待っている人がいれば、生きて帰ってこようって、思えますから。
(負けた、な……)

 男の目から見ても、向坂さんは格好良かった。この一言で、岬さんが惚れてしまっても仕方がない。

 だから、ちらっと顔を眺めてみた。

……。

 恥ずかしそうに、うつむいている。向坂さんとの勝負は明らかに、僕の負けだった。

岬を……頼みます。
……え?
……!
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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