ミッシング・リンク

文字数 529文字

 第一次世界大戦が終わったとき、狐に化かされたのは、杵築家の曽祖父だったのだ。
……!

 戦争で疲れ切った彼は妄想に取りつかれ、自転車をかついて村を夜中じゅう彷徨したのだ。幼い狐のヨウコが見たのは、それだろう。

 彼が結婚したとされる相手は、実際にはスペイン風邪で死んでいた。身代わりとなったのが、信夫ヶ森の妖狐だった。それがヨウコの語った、狐の嫁入りだ。

 そう辻褄を合わせると……。

なあに? 才くん。
 僕を見つめ返す岬さんには、妖狐の血が流れていることになる。憶測だが、それなら同じ妖狐のヨウコが見えても不思議はない。さらに、狐に化かされたお坊さんの話を考え合わせれば、岬さんの不思議な経験も説明がつく。
……!
 あれは、初めと終わりの閉じた空間……つまり、一種の結界だったのだ。おそらく、岬さんはそれを無意識に作れるのだろう。
……。

 だから、会うのが後ろめたかった向坂さんの車は、神社にたどり着けなかった。瀕死の重傷を負ったとき、会うまいとした僕も、それと同じように記念公園に近づけなかった。

……。

 逆に、岬さんが僕を一瞬で自宅に運べたのも、神社と結界でつなげたからだ。そういえば、図書館を出たときに姿が消えたような気がしたことがあったが、これも同じ理屈だろう。

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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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