ミッシング・リンク
文字数 529文字
第一次世界大戦が終わったとき、狐に化かされたのは、杵築家の曽祖父だったのだ。
戦争で疲れ切った彼は妄想に取りつかれ、自転車をかついて村を夜中じゅう彷徨したのだ。幼い狐のヨウコが見たのは、それだろう。
彼が結婚したとされる相手は、実際にはスペイン風邪で死んでいた。身代わりとなったのが、信夫ヶ森の妖狐だった。それがヨウコの語った、狐の嫁入りだ。
そう辻褄を合わせると……。
僕を見つめ返す岬さんには、妖狐の血が流れていることになる。憶測だが、それなら同じ妖狐のヨウコが見えても不思議はない。さらに、狐に化かされたお坊さんの話を考え合わせれば、岬さんの不思議な経験も説明がつく。
あれは、初めと終わりの閉じた空間……つまり、一種の結界だったのだ。おそらく、岬さんはそれを無意識に作れるのだろう。
だから、会うのが後ろめたかった向坂さんの車は、神社にたどり着けなかった。瀕死の重傷を負ったとき、会うまいとした僕も、それと同じように記念公園に近づけなかった。
逆に、岬さんが僕を一瞬で自宅に運べたのも、神社と結界でつなげたからだ。そういえば、図書館を出たときに姿が消えたような気がしたことがあったが、これも同じ理屈だろう。