タイムアップは目前に

文字数 459文字

(まさか、ヨウコが……)
 今は実家にいるはずだ。ノロノロ走る車の中と窓の外を眺め渡してみたけど、それらしい様子はない。服の中から出した絵馬を眺めてみたけど、何も書いてなかった。狐ネットワークもお手上げなのだ。
随分と大きなお守りだね。
 気を取り直そうとするかのように、向坂が明るく気さくに話しかけてきた。
ええ、実家の。
 とりあえず、そう答えたのが墓穴だった。
岬とは、どういう関係?
(その話に戻ってくるかな……)
 身体が強張ったけど、思い切って口を開いた。
僕は……。
別にいい、今の見れば分かる。
 そう言うなり、向坂は車を渋滞した道の路肩に止めた。割りこまれた後ろの車が、けたたましくクラクションを鳴らす。
降りろ、たぶん、公園にはたどり着けない。
どうして?
 向坂の顔をみると、僕を小馬鹿にした様子はない。むしろ、まっすぐ前を真剣に見つめている。
さっきと同じ場所だ。
 窓の外を見ると、向坂に拾われた場所だった。
行ってみるんだね。もしかすると、歩いたほうが確実かもしれない。
 僕は言われるままに車を降りた。時間が惜しかったのだ。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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