身に覚えのない疑惑

文字数 463文字

 僕を見下ろす形になったヨウコは、ゆったりとした、しかし厳しい口調で尋ねた。
アタシに隠し事してない?
まさか。
 思いもよらないことだ。去年の高校生活の半分を、誰とも話さないで過ごしてきたのが僕だ。年末年始も実家に帰らず、一緒に年越しそばと餅を食べてじゃれ合いながら暮らしてきたヨウコとの間で、隠し事は何の意味もない。
まさか、他に女が……。
 あり得ない。岬さんのほかに女性がいたとしたら、恋に悩みながら艱難辛苦の生活を送ることもなかったのだ。

 ヨウコと共に、半年間もの間……。

 なんにせよ、ここでやるべきことは1つしかない。僕の実家へ連れていくより他に、岬さんの願いを叶える方法はないのだ。 

バイトやめるかな。
 それで済むことだった。ヨウコと狐たちが探してくれた手掛かりが何だか知らないが、僕の予定さえ空いていれば、岬さんが大学院生の向坂とどれだけ忙しい日々を過ごそうと関係ない。
ガッコどうするの。
 当然の心配だった。いや、ヨウコがそこまで気にかけてくれていることが、今はうれしかった。もちろん、恋のために人生を棒に振る気はない。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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