蘇る思い出

文字数 461文字

私……ね、子供の頃から、人に見えないものが見えたり、会いたくない人と会わずに済ませたり、そういうことができたの……おかしいでしょう?
(……ヨウコ?)
 そのとき、忘れかけていた妖狐のヨウコとの半年間が、いっぺんに蘇った。
お兄ちゃん……。

 笑ったり、僕をからかったり、ちょっと拗ねたり、だだをこねたり……。

 だが、追憶にふける僕を現実に引き戻したのは、岬さんの不可解な一言だった。

だから、才くんにも妹さんにも、ちょっと失礼なことを……。
……え? ええと……いつの話?
 心当たりが、全くなかったむしろ、僕とヨウコが迷惑をかけていたくらいだ。
学校に、よく遊びに来てたでしょう? 妹さん。図書館にも。
 そういえば、高校時代にそんなことがあった気がした。だけど、確かあの時、ヨウコの姿は誰にも見えなかったはずだ。
 すっごく可愛いのに誰も問題にしてなかったから、私、いつもの幻見てるんじゃないかと思ってたの。でも、いっぺんコンビニで見たから、そうでもなかったみたいだし……あ、今、どうしてるの?
あ、ああ、さっさと結婚して、遠くに行った。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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