ヨウコの逆上

文字数 401文字

お前は何を言っとるんだ?
いや、僕じゃなくて。
 眉をひそめる親父に弁解しながら、目でヨウコをたしなめる。だが、キッと顔を見上げたヨウコは、口で言っても聞かないのに黙るわけがなかった。
ううん、あのときは、もっと性質が悪かった。だって、みんな勝つつもりでいたもん。自分とか自分の家族が死ぬなんて思ってなかったもん。自分たちだけは、ここだけは関係ないって気でいたもん。誰か死んでも、自分でなくて、家族でなくてよかったって……。
 涙声はもう、僕のものではなくなっていた。親父もオフクロも、ただ茫然としている。

 まるで、狐に化かされているかのように。

それで、気が付いたら、この辺の若い人、何人もいなくなってた。帰ってきたのは、桐の箱に入った石ころだけ。ううん、帰ってきたんじゃなくて、返されたの。狐に化かされたみたいだって、こっそりみんな言ってた。そんなことのできる狐なんて、もうずっと前にいなくなってたのに……。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色