ヨウコの身体の秘密

文字数 531文字

 うろたえる声と共に通話は終わったが、代わりにヨウコがフローリングの床を転げ回って、けたたましく笑った。
ヘンタイ! 変態ヘンタイ変態!
うるさい!
 僕も床に足を投げ出して笑った。あまりのおかしさに我を忘れて、しばしヨウコと二人でどたばたやっていたが、やがてお互い、力尽きて息切れがするようになったところで、ようやく興奮は治まった。
……ヘンタイ。
あ……ごめん。
 いつしか、僕たちは抱き合ったまま床に寝そべっていた。短く切った髪を乱して見つめるヨウコから慌てて跳び退った僕は、とんでもないことに気付いた。
あ……。
え……。
しっぽ……。
 まくれたスカートから覗く白い下着よりも先に目を奪ったのは、その中からふさふさと飛び出した、それこそ狐色をした長い尻尾だった。
……!
ヨウコは慌てて跳ね起きると、スカートの前を押さえて居住まいを正した。
……見た?
……うん。
……バカ。
 下着の話か尻尾の話かは分からなかったけど、どっちにしても隠すのはかえってやましい気がした。そこに込められているのが怒りなのか軽蔑なのか、それもまたよく分からないまま、僕はただ謝るしかなかった。
……ごめん。
 ドタバタやったせいか、それともヨウコを邪な眼で見てしまった罪の意識からか、ちょっと息が苦しかった。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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