ヨウコとの出会いの思い出

文字数 408文字

昔ってお前、たかが半年……。


 実家から帰るとき、バスに乗り込んで来たヨウコは、ずっと僕の隣に座っていた。下宿近くのバス停に着いた頃には、どこで降りたのか、いつの間にか姿を消していた。

 だが、その日の夜、レジ打ちに立った僕の前に、ヨウコは店のおにぎり1つ持って都合よく姿を現したものだ。

ちょっと……お客さん。
 それが文字通りだってことには、店長や他の店員に対応を促されて気付いた。それまでは間違いなく、店内には誰もいなかったのだ。
へへ……。

 金なんぞ持っていないことはハナっから分かっていたが、こういう行動に出られると、無視することもできなかった。

 そんなわけで、コンビニへ寄りたがるヨウコへの宣告は、あの晩と全く同じだ。

おごってなんぞやらんからな。
 客ではなく、関係者だということを店内にアピールした一言だったが、それは完全に裏目に出た。

 運の悪いことに、岬さんが店に入ってきたのだ。

……あら、妹さん? 可愛いわね。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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