僕が「妹」に勝てない理由

文字数 447文字

あ、妹さん? 可愛いわね。

 ヨウコが声を真似てみせるのは、そのことを思い出したからだろう。

 別の客に対応してレジに立っていた僕は、思わず金額を打ち間違えていた。大慌てで訂正しようとしたが、岬さんが見ていると思うと、そのミス自体が恥ずかしかった。うろたえればうろたえるほどキーを打ち間違え、僕はすっかりパニックに陥ってしまった。

 その時だった。

 レジの機械がレシートを巻き込んで逆転を始めたのは……。

失敗したの、元に戻してあげたんじゃない。
あれ、お前が壊したんだからな。
 ヨウコの言い訳を一蹴してとどめの一言を放ったころには、レジの故障の責任をとらされてクビになったバイト先は、車道のはるか後方に飛び過ぎている。
ふ~ん……じゃあ、狐ネットワークはもう……。
ごめんなさい。
 恨みたっぷりに返された開き直りの一言に、僕は掌を返すように下手に出るしかない。ヨウコの助けがなければ、僕は岬さんにとって足手まといでしかないのだった。

 だいたい、そうやって手を貸してくれるのは、この娘が意外と義理堅いからだ。

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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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