岬さんの決断

文字数 417文字

 だが、僕を叩き起こしたのは、スマホからのコール音だった。
岬さん……何で?
そうそう、何よ朝っぱらから。
あ……ごめんなさい。
いや、そういう意味じゃなくて。
 今までメールでしかやりとりがなかったのだ。僕に、携帯番号を聞き出す勇気も教える度胸もなかったからに過ぎないが。
昨日、電話のそばに書いてあるの見たから。
 大した瞬間記憶だった。こっそり、スマホに打ち込んでない限り。
どうしたの?
 似たような問いだったけど、これは本当に用件を聞いたのだ。わざわざ電話をかけてこなければならない用事といえば、ひとつしか思い浮かばなかった。
断ってくる。

 言葉が出なかった。まさか、こんなに早く決断するとは……いや、そうじゃない。たぶん、岬さんも一晩中悩んだのだ。

 すぐ後ろで、くぐもった声がした。

やったね、これでアタシも。
バカ、黙ってろ。
 振り向いた先では、布団にくるまったヨウコが、顔半分だけ出してこっちを見ている。スマホからは、怪訝そうな声が聞こえた。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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