ヨウコの正体

文字数 415文字

お兄ちゃんがそうしてほしいだろな、って思ったから。
お前がそうしたかっただけだろ。

 僕はちょっと凄んで見せたが、それは半分、図星だったからだ。半年前、実は故郷に逃げ帰ったことが一度だけある。

そうかなあ、いやいやバスに乗ってるように見えたけど?
日曜の夕方だったろが。
 ヨウコは顔を丼に突っ込むのをやめて、くいと僕を見上げた。
意味分かんない。
みんなそうなるの、明日は学校とか会社に行かなくちゃいけないと思うと。
 ごねる娘を父親がたしなめるように言うと、再び始まる。

 犬食い、というか……。

アタシ、狐だからはぐ、よく分かんない。
全く、都合のいい時だけ。
 そう、ヨウコは人間の女の子じゃない。

 第一次世界大戦が終わるまで、僕の実家で人を化かし続けていた狐なのだ。もっとも、コイツに言わせれば「それアタシじゃない」ってことになるんだけど。

 でも、僕が乗ったバスを強制的にバックさせたのは、間違いなくヨウコ……いや、妖狐というべきかもしれない。

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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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