ヨウコとの出会い

文字数 515文字

 都合のいいこと言ってるのは、はぐ……。お兄ちゃんも、はぐはぐ……同じじゃないかなあ。
食うのか悪態つくのかどっちかにしろ。
 実際……あの日、できれば戻りたくないと思いながら、僕は1時間に1本しかないバスに乗り込んだのだ。 
まあ、何で実家帰ったか、見当はつくんだけど。
 こういう口の利き方はムカッとくるが、これはこれで結構、楽しかったりする。膝の上のヨウコは、小さくて、温かかった。軽かったけど、柔らかかった。
(う……やば……ちょっと)

 まあ、何というか、その、臀部っていうか、小さな尻の感触はちょっと本能を刺激して、危ない状態になることもあったけど。

 実際、ちょっと胸がドキドキして息苦しい。

はい、今日はこれでおしまい!
え~!
 そんなとき、僕はさっさと飯を切り上げる。たいていの場合、ヨウコは食い足りないのか不平を言うが、飯を残して減給されたり、してはならない身体の反応を、尻の下で起こしたりするわけにはいかなかった。
悪態選ぶんなら、もうごちそうさまだな。
やだ、もう一杯!
そんで終わりだぞ。
 幼児のようにダダをこねる妖狐のヨウコをその場の丸椅子に座らせて、僕は平たい櫃に油揚げがたっぷり混ざっている辺りを狙って、飯を盛りに行った。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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