身を捨ててこそ……

文字数 445文字

(このトンネル通って、高架橋の右端の道通って、一方通行の公道下りて、ぐるっと回って反対方向に出て……)

 走りながらということもあって、車のぎっちり詰まったトンネルの中では、考えるのも煩わしかった。

 その向こうで、公道の上に架かったバイパスの高架橋から下を見ると、トレーラーやダンプカーといった軍の車両がものすごいスピードで行き来している。飛び乗れるものなら、飛び乗りたかった。

(……やってみるか?)

 そんなことを考えたのは、ある確信があったからだった。

 高架橋の端によじ登って、軍の車両が来るタイミングを待つ。失敗して事故っても、死ぬことだけはない。

 なぜなら、ヨウコとの契約はこうなっていたからだ。

決して、他の女に二心を抱かざること。移さば、その日没に死すべし。

 僕の心はもう、ヨウコに移っている。岬さんのもとへ急いでいるのは、言ったことへの責任を果たすためだ。

 死んでしまったら、向坂の告白を断れという言葉を取り消せなくなる。タイムリミットは、今日の日没だ。

(日が沈んだら……僕は死ぬ)

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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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