彼女の実家でも……。

文字数 411文字

 そんな力を持った家系なら、祖父がニューギニアの激戦地から生還できたのも頷ける。彼は、無意識のうちに妖狐の力を使っていたのだ。

 そして彼は杵築家から由良家へと婿養子に入り、高度成長期に都市圏へ出てひとりの娘を設け、夫を迎えて岬さんが生まれた。

 もし、あの町の地下で、忘れられた戦争が牙を剥かなかったら、僕はどんなに美しい義母を持つことになっただろうか。その妖狐の力は、現代の災いを避けられないものだったのか、それとも娘に引き継がれて終わりだったのか、それは僕にも見当がつかない。

どうしたの? 私の顔になにか付いてる?
 せっせと顔を拭く岬さんの仕草は、寝起きのヨウコによく似ていた。
……。
 ヨウコは1000年生きて、狐龍になることはできなかった。でも、こんな形で、僕のすぐそばで生きている。

 だって、こうは考えられないだろうか。

……才くん?
……お兄ちゃん。
 彼女の実家でも、第二次世界大戦が終わる頃まで狐が人を化かしていた。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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