種明かし

文字数 399文字

ほら、才くんが神社で倒れたでしょ? 気が付いたら、ご自宅で介抱してたりとか。
(あれは、ヨウコの仕業じゃなかった?)
それに、何だか、向坂さんの告白お断りする前に、事故で死にかかってたような気がしてるの。
(それは……ヨウコのしわざだ)
 思い出すのがつらくて、僕は話をはぐらかした。
でも、酔っ払いは意識がなくても、きちんと自宅に帰るっていうし……。
そういえば……そうだったわよね。

 怖い目で睨まれるのは、酒が飲める年になって、僕もそういうことがちょくちょくあったからだ。たまに、岬さんにも呆れられたことがある。

 藪蛇になりそうなので、僕は再び蔵と杵築家の歴史の整理に取り掛かった。

まず、ルーツは偶然にも、僕の実家の辺りだった。
信夫ヶ森の宇迦之御魂神。
 岬さんが合いの手を入れながら、古い書物の箱を空けた。糸で綴じられた、分厚い本が何冊も埃をかぶっている。しなやかな指が、その中の一冊を手に取って開いた。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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