僕たちはこんな風に暮らしている

文字数 458文字

じゃあ、夜食な。
わ~い、ありがと、お兄ちゃん!

 コンビニには寄ってやらなかったが、僕は次の日の朝食も兼ねて飯を炊き、油揚げを刻んで醤油までかけてやった。

 面倒くさかったので、ネギは刻まなかったが。

 確か、出会った日の夜も、油揚げ抜きで、飯だけ炊いてやった覚えがある。

あの後さ、しつこく名前とか住所とか聞いたでしょ?
聞いたけど?
あれって、ナンパだよね。
中学生女子と同じ部屋で一晩過ごすわけにゃいかんだろ~が!
 両親を呼ぶか、あるいは警察に相談して家まで送り返そうと思っただけである。ところが、名前を「ヨウコ」と答えたきり、こいつは完全黙秘を貫いたのだった。
あの後、僕がどんな思いをしたか……。
何かあったっけ?
 あの晩、僕は結局、寒い寒い秋の夜を、下宿の外で過ごすことになったわけである。
人としてお前、察しろよ、そこは。
狐だし。

 ああ言えばこう言う。出会ったあの日から、ずっとこうだ。

 僕たちは毎日のように、こんな他愛ない会話をしては、じゃれ合ったり、時々ケンカしたり、また仲直りをしたり……こんなことを繰り返している。

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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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