二人で歩く夜道なのに

文字数 441文字

また……出ていくんだ。軍が。

 海外への派兵……つまり、紛争への介入。平たく言えば、戦争。

 こうなると、大きなトレーラーやトラックが国道を数珠つなぎに走るようになって、なかなか一般車両やバスが走れなくなる。

 それは親父も分かっているみたいだった。

もう、帰りなさい、明日は学校だろう。

 と穏やかに促す先は、岬さんだ。当然。

 その目は僕に「とっとと帰れ」と冷ややかに言っている。

すみません、遅くまで……ごちそうさまでした。

 その頃には、岬さんも何とか食事を済ませられるくらいの時間は経っていた。食卓に手を合わせて立ち上がるのを追いかけるようにして、僕も席を立った。

 台所を出たところにある電話には、デカデカと僕のスマホの携帯番号が書いてある。

(かかってきませんように……岬さんを送ってく途中で)
 玄関を出たあとに、ふと傍らを見る。
……。
 いつの間にかヨウコがトコトコ歩いている。ついてくるなと言ってもムダだろうし、それを岬さんに聞かれて、また誤解されてもいけない。僕は黙って歩きつづけた。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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