決別のとき

文字数 401文字

あとは、って、お前どうすんだよ。
決まってるじゃない。
 とん、と畳を叩いて宙返りしたヨウコは、スカートの裾を器用に押さえて、素足で爪先立ちした。
百年狐は信夫ヶ森に帰ります。すぐそこだし。
 スカートの下から、狐色の尻尾がふわりと垂れた。ウインクすると、似合いもしないセクシーポーズなんかとってみせる。
恋しくば尋ね来て見よ 信夫なる稲荷の森のうらみ葛の葉……なんてね。
 どこかで聞いた歌をもじったヨウコは、急に腰に手を当てて、僕がいつもやっていたように、めっ、という顔をする。
来るな、絶対に。
 その目から、一筋の涙がこぼれた。それを受け止めようとするかのように、僕はヨウコの足元に飛び込んだ。
行かないでくれ。
バ……バカ、どこ座ってんのよ変態ヘンタイ変態!
 慌ててしゃがんだヨウコは、僕の身体を抱き起した。
岬さんに告白して、あとはラブラブになるよう頑張って、とにかく、アタシいらないじゃない、このこのこの色男!
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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