岬さんの暗い貌(かお)

文字数 360文字

ありがとうございました。
 とりあえず礼を言うと、穏やかな声が重い響きを込めて、こう告げた。
 岬の両親は、公園の辺に埋まっていた不発弾の爆発で死んだ。そんな理不尽なことで天涯孤独の身となったことが、ルーツという揺るぎないものを探し求める動機になっているんだろう。そこら辺を受け止めてやらないと、岬の心の闇は救ってやれない。

心の、闇……。

 向坂が言い切ったとき、僕の頭の中で2つのイメージが結びついた。

 岬さんが消えた後に見た、軍のポスターについた拳の跡。

 メリケンサックでも嵌めたかのような、指の付け根の擦り剥き痕。

(だから……あれは)
 後ろの車からしつこくクラクションを鳴らされながら、向坂はゆっくりと自分の車を前に進めた。

(だから……あれは、両親の死に関わるもの全てへの……怒り?)
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色