岬さんの暗い貌(かお)
文字数 360文字
とりあえず礼を言うと、穏やかな声が重い響きを込めて、こう告げた。
岬の両親は、公園の辺に埋まっていた不発弾の爆発で死んだ。そんな理不尽なことで天涯孤独の身となったことが、ルーツという揺るぎないものを探し求める動機になっているんだろう。そこら辺を受け止めてやらないと、岬の心の闇は救ってやれない。
向坂が言い切ったとき、僕の頭の中で2つのイメージが結びついた。
岬さんが消えた後に見た、軍のポスターについた拳の跡。
メリケンサックでも嵌めたかのような、指の付け根の擦り剥き痕。
後ろの車からしつこくクラクションを鳴らされながら、向坂はゆっくりと自分の車を前に進めた。