最後の勝負に出るために

文字数 540文字

 近代に入ってもそんな話が平気で語られていた田舎に岬さんを連れていくまで、1週間とちょっとが残されていた。それは、僕とヨウコが周到な準備を積み重ねるには、充分な時間だった。 

 その上で、日曜の1日で必要なことを調べ尽くすのに必要だったのは、何についての情報が欠けているのか、最後の平日となった金曜日までに確かめることだった。

で、由良さん、今までの情報を整理してみようか。

まず、分かっているのは、父さんは婿養子で、その家系はこの辺りから出たことがないってこと。母さんのほうは、ちょっと複雑。

 いつもはうるさいヨウコも、僕の正念場だということを弁えてか、おとなしく隣の席に座っている。

 岬さんの話によれば、由良家は母方の姓で、戦後の高度成長期にこっちへ出てきたらしい。その祖父は、婿養子だ。つまり、2代にわたって婿取りの家系だったわけだ。

 因みに僕の親父は前近代的に頭が固くて、「小糠三合あったら婿に行くな」を信条としている面倒臭い男だ。だから何だと言われても困るが。

お祖父さんは、第二次世界大戦で、ニューギニアの戦場から奇跡的に生還してる。
ジャワは極楽、ビルマは地獄、生きて帰れぬニューギニア……って戯れ歌があったらしいね。
でも、足に重傷を負ってたから、もう疎開するしかなかったの。
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登場人物紹介

浅賀 才(あさが さい)

 立身出世のために田舎から出てきて下宿生活を送る高校2年生。上昇志向は強いが、出身地へのコンプレックスも比例して大きい。親には強気な態度で出るが、自分にも多大な負担を敢えて掛ける真摯な面がある。

由良 岬(ゆら みさき)

 家紋を頼りに自らのルーツを探す才色兼備の高校2年生女子。孤独を内に秘めた立ち居振る舞いには年上の男性を引きつける知的な大人の魅力があるが、本人は自覚していない。

妖狐のヨウコ

 100年を生きて人間に変身できるようになった狐。旺盛な好奇心に任せて出てきた都会で暮らすために、才の部屋で厄介になっている。自由に姿を消したり変身したりできるが、大好物の油揚げを目の前にすると、一切の自制心を失って術が使えなくなる。

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