第7話◆白百合姫(2)・・・改
文字数 2,945文字
「殿下!? ……その、
運動着姿の王女セレナスが立っていた。
とりあえず言動の荒いグラディルは
てっきり、人前に出る時は
「はしたない、と思われますか?」
「…………いえ……、かなり意外の感がありますが……、お似合いです」
「有難う御座います。身体を動かすことが好きなんです。昔は――、……何です?」
グラディルの視線を意識した途端、
「別に。珍しかねーだろ。女は、軍学校にだって居るぜ?」
「……
「――
グラディルの
猪武者という言葉があるが、それは武人の出来の悪さを
「グラディル!! 殿下!」
「――――!!」
ラファルドの仲裁は当然のこと(職務からしても)。しかし、なぜか二人から(しかも同時に)
(気の強さは互角……かな? ラディ、本気で喧嘩なんかしたら、間違いなく落第だって解ってるよね? ……さて)
どちらからどう
そこに、上品な
「殿下。予定が立て込んでおりますので」
王女の入室からこの
「……解ってます!」
けれど、侍女頭は主人が油断していたことをしっかり見
「では、言動を含めまして、婦女子にあるまじき
「解ってます。……
「私室の方に」
侍女頭の一礼を受けて、王女は
グラディルはその後ろ姿にあかんべーをするのを忘れなかった。
「ラディ」
「迷惑なのはこっちだぜ!
嫌そうな顔のグラディルがここぞとばかりに悪態をつく。
だが。
「?!」
棒状の何かがグラディルの頭のすぐ傍を
「……ぶねえ……じゃ、済ま――、……」
半ば以上壁に埋まっていた青銅の文鎮を乱暴に引き抜き、犯人に突き付けて、言葉を失くした。
立っていたのは、清純可憐の化身になったセレナス王女である。
「でしたら、不敬罪を
「――、ああ!?」
(……頭を冷やしてもらう為に時間を置いたのが、裏目に出たか……。でも)
「殿下」
「何でしょう?」
流石に、この時のセレナスの表情は
腹を立てたのは間違いない。
ラファルドとしては喧嘩両
出来れば、どちらかの肩を持つことはしたくなかった。
けれど、セレナスの当たりのきつさを
「これは――」
明確に
彼らの”常識”では、罰せられるべきはラファルドとグラディルである。
(流石は王宮。
ラファルドにとって今回のグラディルは巻き
騎士が動き始めるのを目の
「昨晩陛下から
「!!」
空気が一瞬で澄み渡り、騎士の動きが止まった。
ラファルドは真っすぐ王女を見つめる。
気に食わない相手といえど無体な
それを理解できないのならば、即行傍
「
動こうとした騎士の目が泳ぎ、我関せずと職務に埋没していた侍女の注意が集まる。
「……振る舞いが行き過ぎました。申し訳ありませんでした」
セレナスが頬を赤らめて
これで手打ち、ということである。
「
騎士は何事も無かったように持ち場に戻り、侍女も職務を再開する。
しかし、グラディルの虫の居所は治まっていなかった。
「けっ、色気づきやがったかよ」
「!!!」
今度は、部屋中が一瞬で殺気立った。
すかさずラファルドがグラディルの脇腹に肘鉄を見舞っても、後の祭りである。
「……一つ、忠告を差し上げますわ」
不自然なくらい芝居がかった
「!?」
「…………!!」
要領を得ないのは少年二人で、
侍女の一人が王女の私室に
王女は
優雅な手つきで箱を開けると、透明な、男性の握り拳ほどの宝石を
侍女頭が駆け付けたのはそんなタイミングだった。
「姫様っ!! それは、金剛石です!! ゲンズバルド侯爵様から
しかし。
さりげない仕草で力を
「――――!!?」
金剛石が粘土か何かのように潰れ、崩れていく。
そして、宙に放った欠片を片っ
「――――」
誰も彼もが
「
「…………」
言葉が無ければ、反応も無い。
無人の
へなへなとこの世の終わりのように崩れ落ちた侍女頭の元に、御注進に走った侍女が戻って来る。
その手には
「――さて。本日の朝食もお父様と
一般人よりは剛胆なはずの騎士さえ時間を止められている中で、せっせと働くのがグラディルの知り合いらしいと理解できたのは良かったのか、悪かったのか。
そして、騎士たちや侍女が続々時間停止を解除されていく中で、王女は
「よろしくて?」
「――あ、ああ……」
「…………はい……」
少年たちは生返事がやっとだった。