第47話◆血という名の因果(2)・・・改
文字数 3,267文字
「駄目だ!! これ以上の迷惑はかけられないんだ!!」
「……
セルディムの暗がりが色を濃くしていく。
叔父が何を求めて
けれど、父クレムディルの時のような結果は繰り返されてはならないのだ。
グラディルは覚悟を決めたようにため息をついた。
「……だから、駄目なんだよ。叔父さんは居なかったんだな? 魔神戦争が起きた時、公国に」
「何が言いたい?」
それでも、セルディムの声は乾いていた。
「ファルの親父さんは――親父を治すことと引き換えに、異能を失った。……魔神戦争のことは、
「300年前と7年前。どっちだ?」
公国の史書に記される魔神戦争は300年前の出来事である。
王都から東南に位置する、神山として信仰を集めた山を巡って魔神と人族が魔族を巻き込んで争い、人族が
それはもう、風化に歯止めが掛けられない記録の一つに過ぎない。
だが、7年前。
その再来を予感させる異常事態に公国は見舞われた。
以来、
「7年前の魔神戦争は――、セルゲート家当主(当時)が、家伝の異能を失ったからこそ起きた戦争だ――なんて、陰口を
「…………。……まさか……?」
グラディルの問いには黙して答えず、しかし、何を予感したのか、顔を青ざめさせていく。
「当時のセルゲート家の当主――ファルの親父さんが異能を失ったのは、親父のせいだ。当主の異能が
グラディルの声は後悔が
「あいつは一番上の兄さんを、失った。異能――神祇の力、を
「…………」
「そして、親父さんは責任を追及された。異能が
自然と
「……そうか……」
だから、見えなかった。
セルディムの視線の先が。後悔に押し
そして、グラディルは感情の
「だから、これ以上の迷惑はかけられないんだ――!」
「…………」
「……なあ、叔父さん。戻って来ないか? 家に。母さんだって、絶対に歓迎するよ!」
「食い
グラディルの表情が、感情が、一瞬で硬直した。
「
「――――」
悲鳴とも否定とも取れる
「……俺が……、俺が! 勇者になれれば――。この力を使いこなせれば――きっと――!」
「駄目だ」
「どうして!? 俺は、使い方を知りたいんだよ!!」
グラディルが力任せに
「駄目だ。失敗すると解っている冒険はさせられない。クレム兄さんだって、止める」
冷たいぐらいのセルディムに感情を
その目の
「解ってる! 解ってるんだよ、そんなことは……!! でも、俺には必要なんだ! 力が。今!!」
「……トラス……」
肩に宛てられた手には、確かな温かさがある。
けれど、グラディルはその手を外した。同情を拒むように。
「――解ってる! でも――俺は、今――!! ……駄目だ。こんなんじゃ、駄目だ。あいつに、言われるまでもない。こんな自分じゃ、こんな俺が一番駄目なんだ――! 軍学校に放り込まれたのだって、結局――」
甥っ子の口から出て来た奇妙な単語に、セルディムは目を丸くした。
「トラス? 軍学校とは……? ……よくあったな、そんな金――」
グラディルは滲む涙を
「
意外に思われることが多いが、勉学においても優秀なグラディルである。
だが、周囲を安心させるには学業が優秀であることを提示するのが手っ取り早い。
ちなみに、奨学金という制度を紹介してくれて
「そうか……。まさかとは思うが、お前、軍人に……?」
セルディムは何処か不安そうだった。
「ならねえよ。教官にゃあ悪いけど、規則だ、上官には服従だ! なんだので
「しかし、その制服は――?」
「……ん? ああ、これか。バイトだよ、バイト。軍人になる気ねえの解かられてっから、軍に就職したらこんな特典もあるんだぞーって、教官が根回ししたんだろ?」
グラディルは正直に話すよりも、嘘にならない程度に口を
叔父の
「いや、その紋章は、
叔父の指摘に、今度は甥の方が目を丸くした。
勇者になるまでは公国民でありながら、公国軍を嫌っていたクレムディル。
喧嘩別れする前は仲の良い兄弟だった。
だから、セルディムも軍が嫌いだと考えていたのである。
「?
セルディムは不意を打たれたように慌てた。
「――!! ば、馬鹿もん。
「……随分、柄の悪い場所に出入りしてるんだな?」
「言っただろう。ファナムのことを調べて回った、と。外から流れて来た者達が
「へえ……」
納得しているのかしていないのか。
判断に困るセルディムは主導権を取り戻す為に反撃に出た。
「お前こそ何だ、トラス! そんな上品で
流石にそれは、守秘義務に引っ掛かる。
グラディルは言い争いを続けるよりも、冷静に戻れる時間を確保することを選んだ。
「――あ。時間だ。
水掛け論になったら、感情が
「む。……そうか?」
本音を言えば追及したかったが、セルディムは諦めた。
問い
甥っ子のようには軍を信用できないからだ。
「また会いに来るよ。だから、会ってやって欲しい。母さんにも、弟と妹にも。それと……俺の、友人にも」
別れの言葉とは裏腹に何処か離れがたそうな甥の顔。ため息を返すと。
「
グラディルは
「
「…………。……ああ、また、な」
甥の背中を
「そうですの……。良き再会だったのですね……!」
セレナスの目に涙が滲む。
ありのままを告げることが出来ないグラディルは、