第22話◆開示・・・改
文字数 4,562文字
驚き呆れるセレナスに、ぽかんと口を開けたグラディル。
そして、ラファルドは
出
「ち――、――陛下! では、
国王と正対する位置、公国の紋章が縫い取られた真紅の
一方、国王が堂々とふんぞり返る玉座。その脇にはクリスファルトと
「うむ!」
胸を張る国王の居住まいは何処か
功労者一行(近衛騎士団長を
「
セレナスはすっくと立ちあがると、傍付きの一人を
「……ラファルド?
しかし、睨まれた当人は冷たいくらいに冷静だった。
「殿下。
「茶番――!?」
切り返しに色めき立たなかったのは玉座とその脇に陣取る三人と他数人だけ、という有様だ。
王女に至っては酷く狼狽していた。
「どういう意味です!?」
「殿下。ご質問の順番をお間違えですよ? まずは、何の囮にされたのか。そこを
「……ほう?」
「!!」
雷光を
「…………」
セレナスもまた、どうすればいいのか解らない風情だった。
「殿下?」
何も気づいてないくらい平静にラファルドが
「――――」
けれど、返って来たのは戸惑う視線だ。
(ご自分の立ち位置が解らない、こともあるのでしょうが……これでは、ね)
国王の勘気が怖い、とは解らなくもない。けれど、この程度で黙らされていては、宮仕えで将来を望むことはできない。
(けれど、此処で見放しては
「質問がお有りでないなら、退出致しましょう。陛下も重鎮の方々も大変お忙しい身の上――」
「ほう? 茶番呼ばわりしておいて、ただで済む、と――?」
のうのうと態度を変えないラファルドを、国王の感情が抜け落ちた声が
だが。
誰もがひたすらに
それをまさか、ラファルドはくすぐられるような笑顔で迎え
「茶番でしょう? 魔族の侵入を
騎士団は王女の脱走にさえ、後手に回った。ラファルドとグラディルは現場を目撃している。
そして、国王ガルナード=アストアルが魔族を公国から追放したのは20年は昔のこと。文武において世代交代は進み、魔族が健在だった当時を知る者は少なくなっていた。
元より、魔族の動向を予測するには無理がある。
加えて、現在の公国領土は大陸一つ丸ごと。
魔術や魔力を駆使して隠れ潜むことは朝飯前の種族を把握するには海を越えて他国に人材を派遣するしかなく、魔族の消息を追うことは異国の内情を無断で調べ上げることに等しい。
親密な付き合いの在る友好国相手であっても、無理な話なのである。
ラファルドのきつい皮肉に、国王は眉を
「……っ、」
「陛下!!」
「!? ……、――!!」
国王は宰相の鋭い制止に目を丸くする。しかし、何事も無かったように黙り込んだ。
ラファルドは退屈そうにため息を
「……
「――――!!」
誰もが絶句して、ラファルドを凝視した。
まさか、国王を挑発するという、前代未聞の馬鹿が居ようとは。
怖い物知らずにも程があり、
紛れもない嘲笑物だった。
ラファルドがラファルド=セルゲートでさえなかったら。
「魔族――それは、外ならぬ陛下が公国から追放されたもの。その再来は、お世辞にも平穏無事の
その程度のことは今更指摘されるまでもなかった。
その娘一人だけを可愛がった覚えは無いし、女親を早くに亡くした不憫な娘を目に掛けて文句をつけられる筋合いも無い。
何より、国王に向けられる陰口としてはあまりに初歩過ぎていて、どうこうしたい気にすらならないのだ。
いっそのこと、失笑して見せようかとさえ思った――とは、言わずにおくが。
「だから、何だ?」
国王の凡庸な反応に、ラファルドは目線を鋭く研ぎ澄ます。
不敬を問われる一歩手前まで、一瞬で。
「そんな者をおめおめと放り出したなら――放り出せたなら、英雄の名に恥じます。男としても
「――――」
剛勇を誇る騎士ですら縮み上がる国王の白眼視を、ラファルドは平然と受け流した。
「我が浅薄な
「!!」
至近距離の落雷の如き激怒を
誰もが息を呑み――国王は。
「……まったく。よくもまあ、此処まで父親に似てくれるとはな……」
心底、
それが万座の言葉を
そして、笑顔を消すと、片目だけを娘に向けた。
「セレナス。これがセルゲートだ。二度と忘れるな」
「――は、はいっ!!」
セレナスはきつく
「我が娘を真実案じてくれる
「では、囮とは――?」
ラファルドはすかさず畳みかけた。
「それは――、……む」
言いかけて眉を顰める国王。
ラファルドは舌打ちを何とか隠し切った。
「貴公こそ、お――余に
「……はて……、有りましたっけ、か?」
本気で首を傾げられ、国王の
「貴様っ!! 曲りなりだろうと、公国の
(……いい空気が、すっかりぶっ壊れたなあ……)
グラディルは(巻き込まれたくないので)心の中で泣いておく。
臣下は揃って視線を逸らし、見ないように努める(その実、聞き耳は立てている)始末だった。
「すっかり、忘れてましたね。殿下付きを
「何だと!?」
「――ファル!!」
国王と
ラファルドは渋々とため息を返した。
「……近衛から
「
「何が足りぬのでしょう?」
「……ラファルド殿!」
近衛騎士団長が跪いたまま、ラファルドを
反論は
「近衛殿。貴殿の仕事にケチをつけられておいでなのですが? 私は十二分だと思えばこそ、語ることは無いと申し上げているのです」
「…………」
「――――!!」
傍で聞き耳を立てていたかのように、玉座の国王が目をぎらりと光らせた。
(……ああ、近衛のおっさんたち。後で、まとめて
近衛騎士にとっての諸悪の根源は、値踏みするように国王を睨んでいる。
(……俺も、とんでもねーのと友人やってるよな。腐れ縁だけどさ……)
素知らぬ顔でグラディルがため息をつくと、国王のきつい
(わわっ!? な、何で俺ま――、いや、他人の振りだ、他人の!! 今ならまだ間に合う!! 断固拒否! 巻き添え!!)
それは著しく可愛気に欠ける友人とやらを
公国民であれば無条件で受諾されるはずのそれは、すげなく袖にされた。
「……余とて、近衛が十全に職務を
ラファルドの可愛気の無さは、ごく自然な態度という形を取った。
「困りますね。もっと具体的におっしゃって頂きませんと。ただでさえ、声以外に具体的な物は、何もありませんでしたのに」
「む! 貴様――」
解っているなら、知らん顔をするな!! と突っ込みたかったのが国王である。
けれど。
「予め、殿下のお見合い相手だと解っていれば、自称魔王陛下を、もっときちんと観察させて頂きましたが?」
「――――!?」
すっぱ抜かれて、絶句させられてしまう。
「なっ――?! お父様!!?」
王女の叫びは悲鳴とも糾弾ともつかない。
「げっ! なんつー悪しゅ……だっ!?」
思わず
「……まったく。これだから、可愛げが足りないと言うんだ……!」
一握りの家臣以外には隠していた事実をぶちまけられ、国王は思いっきり顔を苦くする。
その後ろでは、クリスファルトと宰相が意味深に目線を交わし合っていた。
「では、ご説明頂けますね? 囮作戦とは何です?」
「ふん! 貴様らに押しつ……与えた任務以外に何がある! そんな事より!! どうであった? 魔王を自称するに足る男だったか?」
「……判断は難しい、と言わざるを得ませんね。先方も探りに来ていたのでしょう。
国王は速攻、拗ねた。
「存外、役に立たんな。もうよい!」
「へ、」
クリスファルトが釘を刺そうとしたが、国王の一瞥で逆に黙らせられてしまう。
「お父様」
「……何だ?」
嫌そうな
面倒臭い展開が待っていると、容易に解るからだ。
「説明を求めます! 自称魔王殿と見合い、とは
親子はしばし、真っ向から視線を戦わせ合い。
父――国王が先にため息をついた。
「それは――」
「数か月前のことに
宰相がさりげなく言葉を
「魔法による投げ