第18話◆見えざる魔王・・・改
文字数 3,694文字
今度こそ、全員が
完全な不意打ちである。
サティスに至っては、
不思議なことに、新たな人物の姿は
「……この程度の隠れ身も見抜けぬ――、いや、魔力までも
「…………、貴っ様ぁ……!」
「だってよ?」
グラディルが感心してラファルドを見る。
合いの手は
「……それはいいから!」
セレナスが言う通り、セレル=アストリア公国に魔族は存在しない。
今は慎重に見極めるべき状況だった。
魔族を悪用している誰かが居るのか、新たな故郷を求めて無断で流入してきたのか。
それだけでも国家が懸案する事項である。
加えて、魔族は魔王という超、超人的存在を
もし、背後に魔王が居るなら、セレル=アストリア一国で対処していい事案ではなくなる。
「ゼルガティス……!」
「――ぜ、ゼルガ――?! 隣の大陸で覇王を自称するという、魔王――!?」
「自称ではない。事実だ」
「!?」
返答を
数秒
「む。……まあいい。魔族を追放した王を戴く国だ。我が名が響くだけ上等だろう」
「……ふん! 気取りの分際で――!」
(おや。不仲……? 魔王といえど、無条件で魔族を従えるわけではない――?)
緊張の中に困惑が紛れ込む。
この世界の人族が伝える記録、伝聞の中に在る魔王と魔族は絶対的な主従としてのみ描かれている。不仲を
ラファルドは自称(という可能性もある)魔王とも
「……ほう。王に牙を
(まあ……!
セレナスは胸中で突っ込む。
「――ぐっ!」
(どっちにしろ、処刑! ってか? ……変だな。人間にとって
白けた顔でグラディルが突っこんだ。
「なあ。俺達、何時の間にか下っ
「……言われれば……、失礼な話ですね」
私語を始めたグラディルの心底は測りかねたが、
だから、ラファルドは騎士団から
すると。
「何処がだ!? 俺は王だぞ!!」
「人族と魔族。その違いだけで十分別物ですね。それに、こちらには――王女、という由緒も格式も血統も、非の打ち所が無いほど正しい主君がおりますので。成り行きといえ、
「お転婆っつう、玉に
「不敬罪!!」
グラディルの言動が調子に乗っていると、主君に判断された結果である。
※悪い子でも、
「……楽しそうだな?」
「恥を垂れ流すのが?」
と、冷静過ぎる返しをして、
「ラ『ファル!!』ド様!!」
という抗議の怒号を貰う。
「監督不行き届き、ということでよろしいでしょうか?」
姿が見えなくとも、この現場を見ていることに間違いは無い。
「……不法侵入、ではないのか?」
責任を追及されることに困惑する
「双方共に、ということですね? 解りました。魔族二名、きっちりしばいて、お
悪化していくラファルドの言動に、透明魔王は
「――おい。王は適用除外だろう! 魔族であることを差し引いても、一国の頂点に立つ存在なのだぞ、俺は! 治外法権だ!!」
ラファルドの視線によるお伺いに、その
「……法も権利も何も、国交、というもの自体が! 存在していない!! 現状ですけれど?」
「む。その程度は
「土産……?」
宙空に光り
(周到ですね……。薬瓶の出現位置だけでは、居場所の割り出しは難しそうです。それに、どうしてですかね? 自身が公国の賓客だと言わんばかりの言動は。……ま、考え込んでも
ラファルドが不可視の力で手元に引き寄せた。
「中身は?」
「獣魔化の解除薬だ。〈
(獣魔化……。一歩間違えなくとも、侵略行為
薬瓶が伝えて来る予感に、ラファルドはため息をつきたかった。
聞けるものなら、聞きたい。これを貰って、本当に大丈夫か、と。
だが、神祇たる身の上はラファルドのもの。他人には許されることが、天地が
自身の
(本当に、言葉通りの効果が有るから。――?! 魔王が公国に恩を売っておきたい理由って!? それに……
「ぎりっ――」
「んん? どうした、サティス。俺の居場所は掴めたのか? ならば、さっさと
「……自称覇王は、何をしにいらしたのかしら……?」
セレナスは激突を無闇に
てっきり、サティスとかいう
「
「――む!」
グラディルのぶっきらぼうな
(……違う。これは、恩に
「急ぎましょう、殿下。わざわざ、私共に譲って下さるというのですから」
「ですが――!」
王女ならずとも、わざわざ割り込んでおきながら無為に徹する自称魔王の意図は気になる。
心情的には同情するが、魔王を名乗る魔族と現場の一存で事を構えることは許されない。
万が一、本物(の魔王)だとしたら、国家が壊滅する事態になる。
頃合いを読んでいたのか、近衛騎士の一人が進み出た。
「我々が思うべきは公国とそこに息づく民たち。それは、
自称魔王の介入は王女という立場では手に負えない、という釘である。
セレナスも観念するしかなかった。
「仕方ありませんね……。自称、魔王殿の顔を立てるとしましょうか」
「――む。感謝の二文字も無いのか! 何と、譲った
「変な奴。――で? どうすんだ? あの、
グラディルが会話を打ち切ったのはこれ以上話す事は無いという意思表示。
一応でも、魔王を自称する魔族の言い分を呑んだことの表明だ。
現状の公国では立場が在る程、魔族に対する妥協は具合が悪いことに繋がる。
接点となりかねないものは、無いに越したことが無い。
とはいえ、相手が求めて来たのは会話であり、力を誇示した脅迫も無かった。
ゆえに、人間の側から最低限度の礼儀を踏みにじるのは具合がよろしくない。
だから、グラディルの一見、生意気な応対にも騎士団は口を挟まなかった。
「そうですわね……、まずは、槍で取り囲んで見ましょうか!」
騎士団が包囲網を
あっという間に槍が一足で届く間合い。逃げ場が有るとしたら、上空か地下――。
そんな状況が出来上がっていった。
「――ふん!
サティスは両腕を
(
ざわつく包囲網をセレナスは仕草で制した。
「後悔するがいい! この私に、
一瞬で掌に光の球が生まれ、その両腕をいっぺんに振り抜いて、光る玉――魔力の