第12話◆好事、魔多し(1)・・・改
文字数 2,827文字
青果店の
なけなしの小遣いを実戦(?)投入できなかった
風雨に
開けるのに苦労はしなかった。
(……あら、聖堂ですのね)
物
常時、神父なり尼僧なりが詰めていて、生活が可能なように維持管理されていれば教会。
基本無人で、必要に応じて使われるのが聖堂。
と、公国では区別する。
旅人の為の宿泊所という側面も持つが、
古いなりに華やかで、
何十脚にも及ぶ並びは奥まった台座の、風化を感じさせる聖者の像に
光を取り入れる窓は
(古いせいも……ある、のでしょうね。王家が寄付をする修道院とは、全然違います……)
表情が判然としない聖者の像の
像が見下ろす祭壇は所々が欠けていて、年季以外に取り得が無さそうな有様だった。
それでも、手入れは欠かされていないのだろう。
そして、天井だけは
市民の家が三つ積み重なってもなお余裕があるような高さだ。
(壁と机の間がやけに広いのですが……
毛布一枚で横たわる旅人を想像してみる。
ふと、笑みが浮かんだ。
「……
突然、重苦しい音を立てながら扉が閉まる。
「?!」
急いで駆け寄って、扉がうんともすんとも言わなくなったのを確認すると。
「ちいとばかし油断が過ぎる、んじゃねえですかねえ、お嬢様。昼日中とはいえ、お供もつけずに一人、はいけやせんでしょう?」
忠告しているとは到底思えない、舌なめずりの
(左
振り返れば、
「……芸も
セレナスは無表情に
「そいつぁ、
男が苦笑して寄り掛かりを止めると。少女の
「流石は、身の程知らず――」
「!!」
男の顔から一瞬で表情と感情が消え、鋭い殺気が両目に灯る。
しかし、セレナスは悠然と周囲を
「あら、まあ……。隠れる程度の芸の持ち合わせは有りますのね? 見損なってましたわ」
男の胸中から
(殺気を読む、小娘――?)
獲物であるはずの少女の視線は、隠れ
お
予定外の荒事に化けるかもしれない確率が一気に跳ね上がった。
(貧乏くじずいてやがんなあ……、おい! けどよ)
引き下がるという選択肢は無い。
「申し訳御座いませんが、一緒に来て頂きやしょう。多少、手荒になりますが」
「無駄口は結構! 聞くに
ぴしゃりとやられて、男はため息をついた。
「そんじゃま、
その小娘は
「今更、馬脚を現すのですね……。芸も機転も無い、貧相なお
歯軋りが
「――
「急げ――! 先を越されちまうぞ!!」
青空の下、街路を駆けるグラディルが
「ちょ……、ちょっと――、き、君、みた、いに――」
息も切れ切れに言葉を返すラファルドを、困り顔で振り返った。
「……しょうがねえなあ……」
「――え? あ、わわっ! ……ご、御免」
そして、ラファルドを背中に背負うと。
グラディルはあっという間に
「きちんと
「――――!!」
そんなことは走り出す前に!! という悲鳴は、しがみ付くことだけを優先する集中力で塗り潰された。
「――、うおわぁあっ!!?」
旅人か
坂道を駆け下りて勢いがついていたこと、曲がりしなであったことも裏目に出た。
背負っていた荷物を放り出してしまったのは不可抗力だ。
「っ、ぶねえ……!」
一応、回避は間に合った。先方は尻
後は、相当な勢いで放り出された荷物の無事を確認するだけだ。
「――大丈夫か?!」
「な、何とか――!」
結構派手にすっ転んだのに、大した傷も無いようだった。
運動は苦手な方だと公言するが、実はかなりいい運動神経をしていると思う。
「よし! ……悪かったな、おっさん! でも、急いでるんだ」
「…………トラス……?」
「ん?」
ふと、差し伸べた手が止まる。
「お前……、トラス、なんだな!?」
「えっ?! あんた――、って……叔父、さん……? マグ叔父さんか!?」
男は手を借りずに立ち上がって、破顔した。
「そうだ! マグスだよ!!」
「……ねえ、こんな時に
そっと近づいて来たラファルドが釘を刺してくる。
「ああ、解ってる! 叔父さん、悪いんだけど――」
マグスも
「後で落ち合おう。そう――」
考え込んだのか途切れたのか判らない微妙な間だった。
「ぐっ、ぅ、ぅ、う――ぐはっ!!」
大きな吐血と共にマグスが
「叔父さん――!?」
助け起こそうとするグラディルをラファルドが
「行って!! 僕が見るから!」
「で、でもよ――」
ラファルドはにっこり笑った。
「大丈夫! 君の居場所なら、
後ろ髪を引かれる表情も束の間。
「……頼んだぜ! ファル!!」
「うん、任せて!」
走り去りるグラディルの姿はあっという間に見えなくなった。