第31話◆昼休み・・・改
文字数 3,425文字
調書作成の為の聞き取りから解放されたグラディルが、王宮の廊下で伸びをする。
あの後もちょくちょく父親の顔を暴発させる国王を見切った官僚たちの手配で、セレナス、ラファルド他数名を残して(
そこで待っていたのは、実務的な質疑応答。
殿下脱走の
(教練に
時に真正面から、時に迂遠に、しかし総じて高圧的に迫る質問役を思い出す。
軍学校での授業が無ければ、問い
最悪、
それだけ感じの悪い質疑応答だった。
「…………!」
盛大な腹の虫が
何せ、自分が今
アルバイトは始まったばかりで、
けれど、大した不安も感じてはいなかった。
適当な従僕なり侍女なり(全て先輩)を捕まえて、道を尋ねながら帰ればいいのだ。
そこへ。
「――ん?」
「おかしい……! まあ、逃げ隠れされてるってことだけど」
息を
「おう! どしたよ?」
「――あ。ラディ。クリス兄さんを探してんだけど……」
ラファルドは
なぜなら、国王が直々に白状してくれたからである。ラファルドとグラディルの
何の囮なのか、と言えば。
第三王女は売約済みだと勘違いさせる為の、である。
問題は、そこに嘘も貫き通せば真になる――と考える
それを兄のクリスファルトは知っているはずだった。
謁見の終了直後こそが、最大にして絶好の
なのに、国王のせいで失敗するとは。
公国の
一歩も動くことなく。
玉座の間がそのまま朝議会場と化したのである。
事後報告の場に過ぎなかった謁見に文武の官が勢揃いしていた本当の理由だった。
そして、ラファルドは巻き添えを食らわされた。セレナス王女の巻き添えを。
首尾の良さに
執務を観覧することで、百官を慰労する。本来は栄誉に相当する役目、だ。
兄はそれを当て馬にして、まんまと姿を
セレナスの脱走を知る直前よりも凄い勢いと迫力で滅多打ちにされると解っていたに違いない。
時間的には分にも満たない間、目を離しただけで。
強制的な席替えの為の異動で視界から外れてしまった、それだけの
最初から逃げ出すことまで予定の範囲だったゆえの見事さだ。
再開された朝議は速攻中座し(元より、参加資格自体が無い)、目を皿にしてクリスファルトの
同じ城に居ることは確実なのに消息を追えない、という状況になっていた。
「でも、まあ。これはこれで丁度いいか!」
ラファルドはそう思い直すことにした。
元々、グラディルの事も今日中に片づける予定の一つだ。クリスファルトを質す(という名の
(向こうも〈力〉を使っているはずだしね。一度、頭を冷やした方がいいかも、だよね)
おまけに、
加えて、往生際の悪さでは目の前の(どちらか、と言われれば)悪友も人後に落ちない。
「……ん? 何が?」
しれっと白を切るグラディル。
ラファルドには通じないことぐらいとっくに学習しているのに
健康な心身を探られるのは実験動物みたいな気がするのかも、と思う。
心配のし過ぎだと苦言を呈されることもままあるのだが。
事実がどうあれ、気が抜けないのは現実だ。
青筋をつけて、却下した。
「じゃ、ないでしょうが!」
「……やっぱり?」
グラディルの胸元がぼんやりと輝くと。
二人は一瞬で仕事場の更衣室へと移動していた。
「さて」
ラファルドは服を脱ぐよう、仕草で要求する。
日々軍学校で
それだけ頑丈で、優れた回復能力を備えているのは確かだ。
(普段なら見逃してもいいんだけど、今日だけは――ね)
獣魔化。
魔王が残した言葉がラファルドの心に刺さる棘だった。
(きちんと見極めて、しっかり手を打たないと……!)
現場で迅速な処置を行わなかったのは、王都
これのおかげで距離の多少は無視してグラディルを監督し、護ることが出来ている。
焦る必要は無かったのだ。
ただ、グラディルは普通の人とは異なった体質――身体的特性、を持っている。
それが獣魔化と組み合わさって、未知かつ厄介な事象に化ける危険性を否定しきれなかった。
裸になってもらうのは、着衣や装備の歪み、損壊から正確な
「なあ、飯食ってから――じゃ、駄目?」
「駄目」
「……ですよねー」
「さっさとする! 痛いとか、そんなじゃないんだし!」
「そら、まー。でもよ、さっきので大丈夫になったんじゃねーの?」
「『さっきの』? ……ああ、〈
腕を掴まれ、顔を上げたら。
びっくりするほど
「大技に問題があったから――とかじゃないよな?」
思わず、ラファルドはぎくり、となる。
「……あ、当たり前でしょう!? そんなの! 魔族の
「本当に、大丈夫なんだな?」
怖いぐらいの真剣さで、真っ
「大丈夫に決まってるでしょ!! 何年、君の尻拭いをして来たと思ってるのさ! 心配なんて、百年は早いよ!!」
ふと、グラディルの感情が陰る。
「……俺は、お前の家に借りがある。親父は取り返しのつかない過ちを犯した。だから――」
視線とは別の方向を見ている言葉に、ラファルドの後ろめたさが一瞬で吹っ飛んだ。
「……本気で、僕に
「違う!! 誰がそんなマゾな
二人は視線を真っ向から戦わせ合う。
「――――」
視線を
けれど。
「……忘れるわけにはいかねえんだよ。
「(……何回、気にするなと言えばいいんだこの
気分だけを言えば、背中でも何でも張り倒したい。
後ろめたさを抑え込んでいる分、ラファルドには勢いが無が欠けていた。
「――だから!! 本当に、大丈夫、なんだな?」
(……どうして、こんな時ばっかり鼻が利くの……? 単細胞な位の脳筋で居てよ――)
そんな本音はちらとも
「……だから。大・丈・夫! だから!! それとも、何? 尻拭い――いつ起こるか判らなかった君の暴走への備えがどれだけ大変だったか、愚痴らせてくれるのかな?」
それを持ち出されると、
「勝手に首突っ込んだのは
「そ。ま、君の
グラディルから
「……仕方ねえなあ……」
グラディルはため息をついた。