第124話◆帰還
文字数 1,708文字
数日後(探索任務としては過剰なくらいの大所帯と化していた+王宮側の派遣の為の事務手続きが完了していなかった等の事情が発覚した、があり、時間を調整しながらの帰還になった為)。
殆ど無言だった行軍は、王都を囲む城壁の前で終わった。
ラファルドもグラディルもセレナスも、殆ど口を利かず、ただ前だけを見て進み続けたのである。
「――有難う御座いました!!」
城門の前で、一足先に城門を潜る騎士団員、一般の兵士達に、ラファルドとグラディルは頭を下げ倒した。
片や、救助された人質当人であり、片や功労者ながらも犯人の身内。
そうするべきだと、自然に考えていた。
大半の人員には城門を潜れば”終わった”任務となり、後は書類上の記録となる。力を尽くしてくれた誰かに直接頭を下げる機会は、そうそう無い(所属先の代表者に感謝の書面+(贈る側の)身代に応じた謝礼(貴族以上の身分を持つ、もしくはそれに匹敵する財力を持つ商会等が絡んでいなければ、受け取りは拒否される)を贈って終わり、が普通)。
殆どはスルーされたが、セレナスの傍付きになってから見知った面子は手荒い祝福で返してくれた。
一足先に帰還しても問題が無いセレナスも護衛役の騎士を数人選抜して、二人を見届けた。
最後に城門を潜れば――二人を待ち続けてくれていた人達が居た。
ラファルドはお忍び用の服に身を包んだ兄たちにどやされ、ディムガルダに抱きしめられた。
弟たちは館で待機、とのことだったが、後日改めて心配を掛けたことを謝らなければならないだろう。……その時に、お詫びとして何を強請られるのか――が、今からちょっと、怖い気がする。
グラディルはグレゴール教官と幾人かの先輩、級友たちから、手荒い抱擁のフルコースを見舞われた。そして、小言を貰っても不思議ではなさそうな空気を一人醸していた教官には、母の言伝という名の長期休暇も言い渡されて、グラディルの胸中はより複雑なものとなった。
出来れば、告げずに済ませたいのかもしれない。
マグスが王都を騒がせた犯人の一人で、自分に引導を渡された――と。
心の整理には、まだ、時間が必要だ。
だが、先延ばしにするのも難しいだろう。
王都を騒がせた事件である以上、王宮(王家)は公式の見解を掲示しなければならない。
国家の威信が関わる状況において、一個人の心情への配慮は極めて難しい。
加えて、グラディルもクレムディルの死とその真相を知った。
今まで一人で抱え続けて来た母と、家族で話し合う必要が在るはずだ。
「……、帰ろうよ」
待ち続けていてくれた人達も帰宅し、後は各自解散となるはずだったのだが。
グラディルはじっと遺跡の方角を見つめ続けていた。
「ああ、解ってる……」
返事とは裏腹に、ラファルドの方を一ミリも振り返らない。
ラファルドはもうしばらく待つことにした。
五分ぐらい経った、だろうか。
「…………俺、勇者になりたいんだ」
「うん。知ってる」
何を今更、である。
ラファルドや教官の反対を押し切って、勇者試験を受験したのはグラディルだ。
「もう、二度と。こんな思いはしたくない……!」
その為に、危険を承知で〈竜の血〉を制御する修行に取り組んでいるのである。
とはいえ、ラファルドは少し切なくなった。
グラディルの心情が解かる気がしたから。
「……そうだね」
「だから――」
「泣いても大丈夫だと思うよ?」
「…………!!」
先回りされたグラディルは、意表を突かれた表情だった。
「『泣かないことを選んでいいのは、泣くべき時に泣くことが出来る人だけ』――って、兄さんに言われたことが在ったなあ……。実際、勇ましくて果敢な人って、涙しない人のことじゃないよね」
「――――、……!!」
土を踏む靴音が聞こえなければ、グラディルは何を言おうとしただろうか。
正直な話、まだ居たのか、と思った二人である。
そして、靴音の主は少しだけ可愛げが無かった。
「そうね。我慢し過ぎて心を歪めることになれば、それこそ本末転倒、ですわ!」
グラディルの表情が歪み、目には涙が滲むと。
「……有難う……」
聞き取れるか取れないかの声で、そう呟いた。
向う脛を蹴られたとかが無かったら、もっと素直に泣けた――とは、後日の喧嘩で暴露された事実である。
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