第24話◆水面(みなも)と水底(みなそこ)・・・改
文字数 2,093文字
公国御一行様が引き上げて無人となった聖堂跡に、貫禄に満ちた男の声が響く。
平らに慣らされた
「――へ、陛下……、
それでも、まさか茶番劇を組んで
人間達がやっつけたサティスは、人間を幻術で変装させただけの偽者。
見破られても仕方がなかった
未だ見えざる魔王は
「昼寝の邪魔をしてくれる阿呆の
「……、ぐっ、ぁ、……!!」
魔王の声は
「何故だ? 何故、王命に
「……、……気が、触れられたのは――どちらか!! まさか、人間の娘と、本気で婚姻を――?!」
「……別に良かろう? 英雄、色を好む! とも言うしな。純血、純潔、一本調子では、いずれ来る命脈の尽きる時を早めるだけだ」
王として賢明な決断だとしても、魔族にとっては屈辱以外の何物でもなかった。
命脈を保つ為だけに、人間に頭を下げようというのは。
「……我らが、祖から舐め続けた辛酸の歴史を、何だと――!」
魔族としては芸が無いと言っていい不満。
ゼルガティスにとっては思考停止であり、食い飽きた逃げ口上でしかなかった。
「忘れろとは言わぬし、忘れたつもりもない。だが、憎悪の連鎖だけでは新たな未来を勝ち取ることは
サティスは
「――裏切り者め――!!」
サティスの目に憎悪が宿り、
口の
「そうか……。では、致し方ない――」
サティスの眼前。何も無いはずの空間が歪んだ。
水面に
そこから
そして、曇りと歪みが消え去り、
ついには、中から剣を片手にマントを羽織った男が悠然と現れた。
サティスは顔の半分をマントに
「……ゼルガ、ティス……、へ」
「貴様を処断する。せめてもの
「……っ、抜かせえええっ――!!」
サティスは体内で
だが。
サティス
「――――」
「
泣くべきか、笑うべきか、悔しがるべきか。
サティスは理解したくなかった。
「……何故だ……? 何故、サティス……」
ぽつりとつぶやき、魔王は聖堂跡を去った。
そして。
誰も居なくなった聖堂跡で、奇跡とも呼べる現象が始まった。
散ったはずの塵が一つに集まり、遺体を作り上げていく。
魔力で焼き焦がされた骨に炭化した組織がまとわりつき、盛り上がりながら炭から色彩を取り戻した。縮んで皺くちゃになった組織がさらに膨らみ、焼き尽くされることで失われたはずの水分をも取り戻していく。
魔王直々に処断された肉体が、蘇ろうとしていた。時間を巻き戻されることで。
「気づかなかったか……。正直な所、
復元過程の死体が
復元された目は
「それで? 此処から先はどうされるつもりか」
合いの手を入れる声が在った。
けれど、姿は何処にも無い。
「さて、どうするかな。思う以上に鈍い連中だった」
「事前の会談を不意にされるなら、帰らせて貰いたいが?」
退屈を装う声の奥には苛立ちが潜んでいた。
生き返る前の死体の目が、誰かを見遣るように動く。
「
「解っている!!」
苛立ちを隠せなくなった誰かに、声から感情が消えた。
「此処から先は予定通り、貴様に任せる。結末さえ
「……心配も釘刺しも、無用だ!!」
「そうか。言葉が過ぎたな。では――」
奇跡は唐突に
「ふん。化け物が――!」
風の気紛れで現場に取り残されていた塵が、誰かの嫌悪を表すように踏みにじられた。