第9話◆憂鬱・・・改
文字数 2,007文字
植込みの
今は枝を伝って城の壁面に飛びつき、国王の居室に通じていたテラスとは別のテラスを目指している。
「相変わらず、常識ってもんが変な所で欠けてるよな。だから、周りがいらねえ苦労をする――って、いけね!」
数十秒後、定時の巡回を行う騎士がすぐそばの
「……あー、びっくらこいた……と!」
再度壁面に飛びつくと、ギアを一段上げた。
さっさと
不審者として、矢じりや魔法、銃弾で撃ち落とされる未来は遠慮したかった。
ふと思い至る。
「父親を
とはいえ、噛みつかれる理由までは解からない。
考え事もそこそこに、目標地点に到達した。
まずは気配を窺い――O.K。
次いで物陰になりそうな場所を選んで、そっと覗き込んでみる――O.K。
(……あれ? 開いてる窓がある……いいのかね? 警備、厳重にしてるはず、だよな?)
厳重だったら、グラディルはとっくに撃ち落とされている――のではなく。
宮城の敷地全てを全力で監視監督し続けるのはあまりにも不経済であり、ポイント押さえることで、経済的にも人力的にも効率的な警戒網を構築しているのである。
加えて、現在グラディルが張り付いている壁とその近辺は国王を初めとする王族の私的な生活空間に接していた。
警護される必要があるとはいえ、四六時中見張られていては精神的健康によろしくない。なので、
(まあ、
花の意匠を施された華やかな手すりに立ち、壁際のカーテンの影に座り込む。
そっと、部屋の中を窺えば――女性の物らしい優美な(しかし、高価な感じの)調度が
(よしよし。出口は――あそこか。んじゃま、さっさと通り抜けさせて頂きましょうかね! 後は、
泥棒に来たわけではないのだが、どうしてか、後ろめたい気分にさせられた。
そっと上がり込んで、ガラス窓を閉め。寝転びたくなるくらいフカフカな
(……何か、
花柄を
目が潰れそうとはどういうことか教えてくれる品々が暴力的な密度でひしめいていた。
(全っ然現実味が無いっつうか……まあ、物の値段なんて解んねえけども。……親父も言ってたっけ。どれがどれだけ値打ち物なのか、さっぱり判らなかった――って。ああ、そいうや、盗品の回収と泥棒のお仕置きが親父の、勇者の初仕事だったよな。勇者らしい仕事がしてえ! ってゴネてたのがバレて、師匠の制裁食ってたっけ……)
湧き上がる思い出が口元を
「――――!?」
近くに人の気配を感じて、慌ててベッドの下に
すると、出口と目していた扉とは別の扉が開いて、女性物の靴がやって来た。
「…………」
ベッドの周囲を不思議がるように歩き回り、しかし、何事も無かったように出ていく。
指を折って100を数えてから、ベッドの下から
(……ふう、やべー……! さっさと仕事場に戻らねえと!)
女物の靴が出て来た扉から遠ざかるように移動して、目当ての扉に近づく。
耳を澄まして扉の向こうを窺い、そっと開けてみようとノブに手を掛けた所で――扉のノブが勝手に回った。
「この!
(ヤベえ――! バレてた?!)
絨毯の上の足跡が敗因だった。
振り下ろされた硬い木の棒を、腕を十字に組んで受け止める。
「……?! ――ら、ラディ!!
「へ? あ、いや――」
きつい目線に押し負けて目を
「――――え?」
「ちょっと!!」
貴方、立場解ってるの?! と小声でどやされたが、それどころではなかった。
少し遠めの壁の
記憶が確かなら、今朝。
つまり。
「……じゃあ、テラスの窓が開いてたのは――?!」
「――はあ?! ……って、何ですって――!!?」
無自覚の爆弾発言は、場に居合わせた第三王女の仕え人全員を驚愕と卒倒の