第0話◆勇者試験・・・改
文字数 1,416文字
武装した兵士によって名前が叫ばれると、歓声が一際大きく
10m四方の石畳を円形に囲う灰色の石壁。そこから外側が観客席で、無数の人々が群れ集っていた。或る者は興奮に酔い、或る者はしたり顔で
今日は二年に一度の勇者試験。それも、部外への公開が許されている
観客席の95%以上は野次馬。合法的に騒げるお祭りを逃さない、暇人も同然の人種だ。
しかし、勇者という存在に焦がれ、勇者になることを目指す受験者たちにとっては紛れもない真剣勝負の場だった。
「……見てろよ……。絶対に、勇者になってやる――!」
光の差し込みを意図的に加減した石の踊り場で、熱く、言い聞かせるように
グラディルはずっと待ち侘びていた。悪友や教官からは「まだ早い!」と制止された。友人たちは(説得しても耳を貸さないと解られているので)微妙な顔で、家族からは「好きにすればいい」と匙を投げられている。未熟なのは解っている。だからと言って、挑まない理由にはならない。なぜなら、ずっと待っていた。この日、この時の為に力を
だというのに。
「……ま、程々に頑張れ! そんで、解ってると思うが言っておくぞ。怪我すんの、禁止な! 訓練に掛ける時間はいくらあっても足りないし、訓練はどれだけ重ねても無駄にはならねえ! グラディル! お前に必要なのは勇者なんていう、薄っぺらい箔じゃねえ! 意識も記憶も飛ぶ、けれど身体にはしっかり経験として蓄えられていく、熱く濃密な鍛錬の時間――」
意気が削がれていく内容を、これ以上ないほど真剣に語ってくれるグレゴールが邪魔だった。
はっきり言って、ぶっ飛ばしたい。ワンパンで、お空に瞬く星の一つに変えてやりたい。
けれど、グレゴールは教官だった。
軍学校のクラス担任で、今日という日の引率も担当している。喧嘩を売った日には出場資格取り消しだった。おまけに、本気を出したグラディルを正面から止められる実力の持ち主である。
「…………うす」
応援する気が無いなら、消えろ! という本音は腹の底にねじ込んで、投げやりさ加減が絶妙に漂う適当な返事に変えておく。
「――いいか?! 何度でも言うぞ!! お前に必要なのは」
「時間だ! 準備はいいな!?」
闘技場の舞台と控えの踊り場の境界で番をする兵士の、冷徹なくらい無感情な声がグラディルの闘志に火をつけた。
「何時でも行けます!!」
陽の光を
「……だから……! 懇切丁寧に教えてやってる端から、お前は――!! 力を抜け、力を!!」
立ち塞がろうとする教官の脇をすり抜け、存在は意識からも抹消した。
そして、後光を背負う兵士の前に立つ。
「相手は必ずしも人間とは限らない! ギブアップをしても成績には影響しない!! ただし、加算も無い。いいな?」
「――はい!!」
「よし。では、入場!」
兵士がすっと、脇に
暗がりから
「たく、もう! いいか!? 怪我だけはすんなよ! 絶対にすんなよ!! 折檻すっからな! 絶対にすんなよ――」
後ろを振り返ることは無かった。